NARUTOコラム
2023/12/28
江戸時代の伝奇的小説『児雷也豪傑譚』と『NARUTO-ナルト-』の共通点を研究者に聞いたら、想像以上につながりを感じた
『NARUTO-ナルト-』を語る上で欠かせない「伝説の三忍」の自来也、大蛇丸、綱手。実はこの3人、設定が似通った同名のキャラクターとして、江戸時代につくられた作品に「登場」しているんです。
今回は、彼らが活躍する小説『児雷也豪傑譚(じらいやごうけつものがたり)』を題材に、『NARUTO-ナルト-』の共通点や違いを掘り下げます。
ナビゲーターとしてお声がけしたのは、日本文学の研究者である山下則子先生(国文学研究資料館名誉教授)と、浮世絵の研究者である日野原健司先生(太田記念美術館主席学芸員)。お二人とともに、日本文学や浮世絵から『NARUTO-ナルト-』へ受け継がれた“物語”をひも解きます。
今回は、彼らが活躍する小説『児雷也豪傑譚(じらいやごうけつものがたり)』を題材に、『NARUTO-ナルト-』の共通点や違いを掘り下げます。
ナビゲーターとしてお声がけしたのは、日本文学の研究者である山下則子先生(国文学研究資料館名誉教授)と、浮世絵の研究者である日野原健司先生(太田記念美術館主席学芸員)。お二人とともに、日本文学や浮世絵から『NARUTO-ナルト-』へ受け継がれた“物語”をひも解きます。
目次
――お二人は『NARUTO-ナルト-』を読まれたことがあるそうですね。率直にどんな感想を抱きましたか?
山下則子先生:筆名は高橋則子。1956年、東京都生まれ。明治大学大学院文学研究科博士後期課程修了。専門分野は江戸時代の文学・演劇・浮世絵。国文学研究資料館名誉教授。著書に『草双紙と演劇』(汲古書院)、『図説「見立」と「やつし」』、『図説 江戸の「表現」』(いずれも八木書店)、『在外絵入り本 研究と目録』(三弥井書店)など多数。
山下則子先生(以下、山下):主人公のナルトが“忍者”だという設定にとても驚きました。あと、狐のようなヒゲや金髪、とにかく明るい性格にも注目しました。
従来の忍者漫画は、白土三平先生の『カムイ伝』や『サスケ』といった作品のように、忍者の暗さを描くものが一般的でした。でも、『NARUTO-ナルト-』では、そうした忍者の暗さみたいなものが、乗り越えるべきものとして描かれているように感じました。例えば、ナルトは明るい性格だけれど、忍者学校の問題児として周囲から疎まれ、孤独を背負ったキャラクターです。だけど、そんなナルトが孤独を克服し、次々に起こる試練にチャレンジする姿を力強く描いている……今までの忍者漫画にはなかった前向きな展開に驚きましたね。
従来の忍者漫画は、白土三平先生の『カムイ伝』や『サスケ』といった作品のように、忍者の暗さを描くものが一般的でした。でも、『NARUTO-ナルト-』では、そうした忍者の暗さみたいなものが、乗り越えるべきものとして描かれているように感じました。例えば、ナルトは明るい性格だけれど、忍者学校の問題児として周囲から疎まれ、孤独を背負ったキャラクターです。だけど、そんなナルトが孤独を克服し、次々に起こる試練にチャレンジする姿を力強く描いている……今までの忍者漫画にはなかった前向きな展開に驚きましたね。
日野原健司先生:1974年、千葉県生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科前期博士課程修了。浮世絵専門の美術館である太田記念美術館の主席学芸員として、数多くの展覧会を企画。浮世絵の歴史を幅広く研究しつつ、妖怪や園芸、旅といったジャンルの研究にも取り組んでいる。著書に、『ようこそ浮世絵の世界へ』(東京美術)、『ヘンな浮世絵』(平凡社)、『北斎 富嶽三十六景』(岩波文庫)、『ニッポンの浮世絵』(小学館)など多数。
日野原:「週刊少年ジャンプ」で『NARUTO-ナルト-』の連載が始まったとき、忍者漫画という響きに何だか懐かしさを覚えました。先ほど山下先生が仰ったように、忍者漫画は時代を超えて愛され、表現が多様化していったジャンルです。しかし、その動きというかブームは90年代頭くらいには停滞してしまった印象です。だからこそ、90年代後半に忍者漫画が始まるのか! と懐かしさを感じました。
――さて、そんなお二人と「伝説の三忍」のモチーフになったとされる『児雷也豪傑譚』と『NARUTO-ナルト-』のつながりを深掘りしたいのですが、そもそも合巻とは何で、『児雷也豪傑譚』とはどんな物語なのでしょうか?
日野原:「合巻」とは、江戸時代に流行した、文と絵で物語を描いた小説です。小説とは言いつつ、全部の頁に挿絵がありましたので、どちらかといえば現代の漫画のような存在とも言えます。
山下:中身の保護と勝手に読まれないため「書袋(しょたい)」と呼ばれる袋に包んで売られていたんです。その書袋のデザインも洒落ていました。
日野原:『児雷也豪傑譚』は、江戸時代後期の1839年から68年にかけて刊行され、全部で43編、172冊もある超大作にして未完という、数ある合巻の中でも「未完の大作」という点で伝説を残した作品です。
しかも文章は4人の作家がリレーのように書き継ぎ、挿絵は7人の浮世絵師が担当しました。
日野原:「合巻」とは、江戸時代に流行した、文と絵で物語を描いた小説です。小説とは言いつつ、全部の頁に挿絵がありましたので、どちらかといえば現代の漫画のような存在とも言えます。
山下:中身の保護と勝手に読まれないため「書袋(しょたい)」と呼ばれる袋に包んで売られていたんです。その書袋のデザインも洒落ていました。
日野原:『児雷也豪傑譚』は、江戸時代後期の1839年から68年にかけて刊行され、全部で43編、172冊もある超大作にして未完という、数ある合巻の中でも「未完の大作」という点で伝説を残した作品です。
しかも文章は4人の作家がリレーのように書き継ぎ、挿絵は7人の浮世絵師が担当しました。
山下:ストーリーのベースとなっているのは、中国の我来也(がらいや)という盗賊の話。その話をもとに日本で1806年につくられたのが読本(よみほん)『自来也説話(じらいやものがたり)』で、それが合巻『児雷也豪傑譚』で義賊の妖術使いへとリメイクされました。読本にも挿絵はありますが、文章が主体の作品で、合巻よりも大人向けです。
『児雷也豪傑譚』の主人公・児雷也は肥後(現在の熊本県)の滅亡した豪族・尾形(おがた)氏の子で、周馬弘行(しゅうま・ひろゆき)という名前でした。周馬弘行は身分を隠して信濃(現在の長野県)で奉公していたけれど、やがて良い行いをする盗賊である「義賊」の児雷也と名乗りお家再興に身を投じていく……というのが合巻の発端部分のあらすじです。
――読本の盗賊から合巻の義賊になって、『NARUTO-ナルト-』では忍者へ、と作品ごとに児雷也(自来也)の位置付けが変わるのも面白いですね。
『児雷也豪傑譚』の主人公・児雷也は肥後(現在の熊本県)の滅亡した豪族・尾形(おがた)氏の子で、周馬弘行(しゅうま・ひろゆき)という名前でした。周馬弘行は身分を隠して信濃(現在の長野県)で奉公していたけれど、やがて良い行いをする盗賊である「義賊」の児雷也と名乗りお家再興に身を投じていく……というのが合巻の発端部分のあらすじです。
――読本の盗賊から合巻の義賊になって、『NARUTO-ナルト-』では忍者へ、と作品ごとに児雷也(自来也)の位置付けが変わるのも面白いですね。
――『児雷也豪傑譚』の児雷也は『NARUTO-ナルト-』の自来也と、どんな違いや共通点があるのでしょうか?
日野原:違いから説明すると、先ほど山下先生も少し触れましたが『児雷也豪傑譚』の児雷也は忍者ではなく義賊の妖術使いとして描かれています。児雷也が忍術と結びつくようになったのは、大正時代の1921年に歌舞伎俳優・尾上松之助の主演で上映された映画『豪傑児雷也』からだと考えられます。
日野原:違いから説明すると、先ほど山下先生も少し触れましたが『児雷也豪傑譚』の児雷也は忍者ではなく義賊の妖術使いとして描かれています。児雷也が忍術と結びつくようになったのは、大正時代の1921年に歌舞伎俳優・尾上松之助の主演で上映された映画『豪傑児雷也』からだと考えられます。
ちなみに、『NARUTO-ナルト-』で自来也が初めて登場したこのシーン。「妙木山蝦蟇の精霊仙素道人 通称・ガマ仙人」と自己紹介をしていますよね。
実は『児雷也豪傑譚』にも、児雷也に蝦蟇の術を教えた末に敵の蛇と戦って命を落とす仙素道人(せんそどうじん)という師匠のキャラクターが登場するんです。
『NARUTO-ナルト-』の自来也は、一流忍者にしてナルトの師匠でもあるので、児雷也と仙素道人の2つを組み合わせて作られたキャラクターなのではないかなと。
――なるほど、ポジションは少し違うと。ではキャラクターの面はどうでしょう? 自来也は“エロ仙人”と呼ばれるほど朗らかであけすけな性格ですが、『児雷也豪傑譚』の児雷也も同じですか?
山下:合巻では児雷也は「2枚目のキャラクター」として描かれていて、これも『NARUTO-ナルト-』との大きな違いですね。
当初、合巻の児雷也は三代目尾上菊五郎の似顔(にがお、役者の容貌に似せて描いた絵のこと)で描かれていました。三代目尾上菊五郎は江戸時代に立役(たちやく、男役のこと)も女方も華麗に演じた役者で、今でいう「イケメン」として大変人気を博しました。魅力的な主人公でないと作品にファンがつかないから、児雷也をイケメンにしたのです(笑)。また、蝦蟇の妖術を使う役を、菊五郎が歌舞伎で演じていたのも(起用された)理由の一つだと思います。
――なるほど、ポジションは少し違うと。ではキャラクターの面はどうでしょう? 自来也は“エロ仙人”と呼ばれるほど朗らかであけすけな性格ですが、『児雷也豪傑譚』の児雷也も同じですか?
山下:合巻では児雷也は「2枚目のキャラクター」として描かれていて、これも『NARUTO-ナルト-』との大きな違いですね。
当初、合巻の児雷也は三代目尾上菊五郎の似顔(にがお、役者の容貌に似せて描いた絵のこと)で描かれていました。三代目尾上菊五郎は江戸時代に立役(たちやく、男役のこと)も女方も華麗に演じた役者で、今でいう「イケメン」として大変人気を博しました。魅力的な主人公でないと作品にファンがつかないから、児雷也をイケメンにしたのです(笑)。また、蝦蟇の妖術を使う役を、菊五郎が歌舞伎で演じていたのも(起用された)理由の一つだと思います。
日野原:『児雷也豪傑譚』のベースとなった読本『自来也説話』では、児雷也は非常にマッチョなキャラクターと言いますか、筋肉隆々で顔もいかつく描かれているんですよ。
読本は大人の男性が多く読みましたが、合巻は女性や子どもの読者も多かったため、彼らのような幅広い読者層の心を掴むにはアイドル的なキャラクターが欠かせなかったんでしょうね。
ただ、三代目尾上菊五郎は『児雷也豪傑譚』がスタートした時点で、もう50代後半の結構良いご年齢でした。『児雷也豪傑譚』は歌舞伎で舞台化されるのですが、児雷也=2枚目キャラのイメージは崩さぬよう、その時代の「イケメン」を代表する人気歌舞伎役者が演じました。
ただ、三代目尾上菊五郎は『児雷也豪傑譚』がスタートした時点で、もう50代後半の結構良いご年齢でした。『児雷也豪傑譚』は歌舞伎で舞台化されるのですが、児雷也=2枚目キャラのイメージは崩さぬよう、その時代の「イケメン」を代表する人気歌舞伎役者が演じました。
――児雷也のビジュアルは、当時の人気歌舞伎役者がベースになっているとのことですが、自来也も見得を切るポーズをするなど、歌舞伎の影響を感じるキャラクターですよね。
日野原:そうですね。『NARUTO-ナルト-』の自来也の顔には、目の下から頬にかけて赤い線が入っていますが、これは歌舞伎の「隈取(くまどり、人の表情を表現するために顔の筋肉や血管を強調する歌舞伎特有の化粧法)」を連想させます。
特に印象的なのが、自来也が「仙人バージョン」で戦うシーンです。自分の血を使って顔に模様を描く演出がありますよね。
日野原:そうですね。『NARUTO-ナルト-』の自来也の顔には、目の下から頬にかけて赤い線が入っていますが、これは歌舞伎の「隈取(くまどり、人の表情を表現するために顔の筋肉や血管を強調する歌舞伎特有の化粧法)」を連想させます。
特に印象的なのが、自来也が「仙人バージョン」で戦うシーンです。自分の血を使って顔に模様を描く演出がありますよね。
赤い色の隈取(紅隈、べにぐま)は、歌舞伎の世界では正義と勇気を象徴するキャラクターに用いられるものなんです。
そして、隈取にもいくつか種類があり、模様によってキャラクターの「力」が異なります。中でも一番筋の数が多い「筋隈(すじぐま)」は、激しい怒りに満ちた、超人的な力を持つ勇者のキャラクターに用いられます。
そして、隈取にもいくつか種類があり、模様によってキャラクターの「力」が異なります。中でも一番筋の数が多い「筋隈(すじぐま)」は、激しい怒りに満ちた、超人的な力を持つ勇者のキャラクターに用いられます。
自来也の隈はこの筋隈に似ているので、自分の顔の模様を増やしてパワーアップにつなげているんでしょうね。
――大蛇丸や綱手についてはいかがでしょうか?
山下:『児雷也豪傑譚』の綱手は、「木の葉の里」の怪力美女という設定で、これは『NARUTO-ナルト-』にも受け継がれていますね。
山下:『児雷也豪傑譚』の綱手は、「木の葉の里」の怪力美女という設定で、これは『NARUTO-ナルト-』にも受け継がれていますね。
一方の大蛇丸は越後(現在の新潟県)の池に住む大蛇と武士との間に生まれ、悪い盗賊として名を馳せて、最終的に児雷也と敵対します。敵のキャラクターという位置付けは『NARUTO-ナルト-』とも共通しているかもしれません。
――自来也と違って、綱手や大蛇丸は設定の共通点が多いですね。
山下:ただ、大蛇丸には「女好き」という属性や、月影(つきかげ)家の田毎(たごと)姫に恋をしてしまう、といったエピソードもあり、ここは自らの野望を果たすためストイックに動く『NARUTO-ナルト-』の大蛇丸とは違うところかもしれません。
さらに、 『児雷也豪傑譚』では児雷也と綱手がいずれは結婚するという、『NARUTO-ナルト-』ファンにとっては少々驚きの展開が待ち受けています。
山下:ただ、大蛇丸には「女好き」という属性や、月影(つきかげ)家の田毎(たごと)姫に恋をしてしまう、といったエピソードもあり、ここは自らの野望を果たすためストイックに動く『NARUTO-ナルト-』の大蛇丸とは違うところかもしれません。
さらに、 『児雷也豪傑譚』では児雷也と綱手がいずれは結婚するという、『NARUTO-ナルト-』ファンにとっては少々驚きの展開が待ち受けています。
そもそも『児雷也豪傑譚』では、綱手は児雷也と同じ尾形家の人間ですし、2枚目で女性にモテる児雷也のことが大好きだった……。それに、武術と妖術の師匠である越中(現在の富山県)の蛞蝓仙人(かつゆせんにん)からは、児雷也のことを「未来の夫」と予言されています。
――そういえば、綱手の口寄せ動物は「カツユ」という名前でしたね。
――そういえば、綱手の口寄せ動物は「カツユ」という名前でしたね。
山下:はい。カツユとは蛞蝓という字で、「なめくじ」の意味です。合巻の綱手は、大蛇丸と児雷也の対決の時、短刀「蛞蝓丸」を振り回して大暴れし、カツユのような大なめくじに乗って去って行きます。とても強くて純情な女性です。
話を戻して、そんな2人の関係性を強く表現するように、合巻では、大蛇丸や敵に襲われる児雷也を綱手が助けるという設定が描かれます。綱手と児雷也が力を合わせて大蛇丸と戦う構図ですね。この辺りは、合巻の読者に女性が多かったので、女性を活躍させたのだと思います。
話を戻して、そんな2人の関係性を強く表現するように、合巻では、大蛇丸や敵に襲われる児雷也を綱手が助けるという設定が描かれます。綱手と児雷也が力を合わせて大蛇丸と戦う構図ですね。この辺りは、合巻の読者に女性が多かったので、女性を活躍させたのだと思います。
――戦いのシーンにも触れておきましょう。『NARUTO-ナルト-』に登場する蝦蟇、ナメクジ、蛇の「三すくみ」は『児雷也豪傑譚』にも登場するのでしょうか?
山下:12編から14編にかけて登場します。
三すくみという言葉が最初に見られるのは、中国の古典です。中国の宋代(960~1122年)の百科事典である『事文類聚(じぶんるいじゅう)』の蛙の項に、「蝦蟇とむかでと蛇の三つが動けなくなること」、蛇の項に「むかでに小蛇が食べられること」と書かれています。また、当時日本でもよく知られていた中国の『本草綱目(ほんぞうこうもく)』という本にも書かれています。
ただ、そうした書物が日本に伝わった後で、なぜムカデがナメクジに変化したのかは分かっていません。
――三すくみの構図を組み込むことで作者は何を表現したかったんでしょうね。
山下:まず、当時流行していた「じゃんけん」の構図を反映した、と考えることはできると思います。
――じゃんけん、ですか?
山下:「日本一古いじゃんけん」と言われる「虫拳(むしけん)」が江戸で流行していたんですね。「蛇は蛙に勝つ、蛙はナメクジに勝つ、ナメクジは蛇に勝つ」といった形で、三すくみの話をそのままルール化していました。
三すくみという言葉が最初に見られるのは、中国の古典です。中国の宋代(960~1122年)の百科事典である『事文類聚(じぶんるいじゅう)』の蛙の項に、「蝦蟇とむかでと蛇の三つが動けなくなること」、蛇の項に「むかでに小蛇が食べられること」と書かれています。また、当時日本でもよく知られていた中国の『本草綱目(ほんぞうこうもく)』という本にも書かれています。
ただ、そうした書物が日本に伝わった後で、なぜムカデがナメクジに変化したのかは分かっていません。
――三すくみの構図を組み込むことで作者は何を表現したかったんでしょうね。
山下:まず、当時流行していた「じゃんけん」の構図を反映した、と考えることはできると思います。
――じゃんけん、ですか?
山下:「日本一古いじゃんけん」と言われる「虫拳(むしけん)」が江戸で流行していたんですね。「蛇は蛙に勝つ、蛙はナメクジに勝つ、ナメクジは蛇に勝つ」といった形で、三すくみの話をそのままルール化していました。
日野原:浮世絵師も虫拳を含むさまざまな拳遊びを題材にした絵を当時たくさん描いていますよね。
山下:もし、三すくみを「終わらない戦い」と捉えるならば、それこそが作品が継続する原動力でした。当時の文学作品は、「膝栗毛(ひざくりげ、弥次さん喜多さんが東海道を旅行する作品)」のように、終わらない作品が好まれました。
これは、当時の社会状況も影響しているように思います。
『児雷也豪傑譚』が刊行された江戸時代末期は、幕藩体制(ばくはんたいせい)が行き詰まり、社会のあらゆるところに矛盾が生じていました。だからこそ、庶民はこういうエンタメや幻想の世界に浸りきっていたのではないでしょうか。
これは、当時の社会状況も影響しているように思います。
『児雷也豪傑譚』が刊行された江戸時代末期は、幕藩体制(ばくはんたいせい)が行き詰まり、社会のあらゆるところに矛盾が生じていました。だからこそ、庶民はこういうエンタメや幻想の世界に浸りきっていたのではないでしょうか。
――全く同じではないけれど、『NARUTO-ナルト-』が随所に『児雷也豪傑譚』のエッセンスを受け継いでいることが分かりました。ちなみに、『NARUTO-ナルト-』は15年間連載され、全72巻で完結した長期連載作品ですが、長きにわたって愛されてきたという意味でも『児雷也豪傑譚』との類似性を感じます。
山下:子供から大人まで幅広い読者層に愛され、長きにわたり物語が紡がれてきたという点で、『児雷也豪傑譚』と『NARUTO-ナルト-』は非常に親和性を感じますよね。
日野原:『NARUTO-ナルト-』で自来也が亡くなるシーンも『児雷也豪傑譚』との強いつながりを感じます。彼は死ぬ間際に「自来也豪傑物語…これでちったぁマシになったかのう」と言い、水底へと沈んでいく。江戸時代の『児雷也豪傑譚』も未完で終わっているけれど、『NARUTO-ナルト-』で自来也が書いていた小説も、ある意味未完なんです。
山下:子供から大人まで幅広い読者層に愛され、長きにわたり物語が紡がれてきたという点で、『児雷也豪傑譚』と『NARUTO-ナルト-』は非常に親和性を感じますよね。
日野原:『NARUTO-ナルト-』で自来也が亡くなるシーンも『児雷也豪傑譚』との強いつながりを感じます。彼は死ぬ間際に「自来也豪傑物語…これでちったぁマシになったかのう」と言い、水底へと沈んでいく。江戸時代の『児雷也豪傑譚』も未完で終わっているけれど、『NARUTO-ナルト-』で自来也が書いていた小説も、ある意味未完なんです。
――たしかに。そこは三すくみの「終わらない」という要素にもつながってきますよね。
日野原:でも、このあと自来也は続編のタイトルを「うずまきナルト物語」にしようと決意する。自来也は物語の続きをナルトに託すわけですが、江戸時代に生まれた未完の『児雷也豪傑譚』の要素が、時をへて『NARUTO-ナルト-』に踏襲されていると思うと、なんだか『児雷也豪傑譚』の児雷也から物語のバトンを受け継いだような……設定の妙と言いますか、運命的なものを感じますね。
日野原:でも、このあと自来也は続編のタイトルを「うずまきナルト物語」にしようと決意する。自来也は物語の続きをナルトに託すわけですが、江戸時代に生まれた未完の『児雷也豪傑譚』の要素が、時をへて『NARUTO-ナルト-』に踏襲されていると思うと、なんだか『児雷也豪傑譚』の児雷也から物語のバトンを受け継いだような……設定の妙と言いますか、運命的なものを感じますね。
※参考文献:佐藤至子「『児雷也豪傑譚』から『NARUTO』へ」(『忍者文芸研究読本』笠間書院、2014年)
※『児雷也豪傑譚』は合巻だけでなく役者絵(歌舞伎の浮世絵)などさまざまな形式で現代に伝わっている。国文学研究資料館・国会図書館・早稲田大学坪内博士記念演劇博物館をはじめ、複数の研究機関に収蔵されている。国文学研究資料館の所蔵本は「国書データベース」、早稲田大学図書館の所蔵本は「古典籍総合データベース」、早稲田大学演劇博物館のコレクションは「浮世絵データベース」にてWeb上で閲覧することができる。また全ての頁の影印を掲載した翻刻本『児雷也豪傑譚』が国書刊行会から刊行されている。
※『児雷也豪傑譚』は合巻だけでなく役者絵(歌舞伎の浮世絵)などさまざまな形式で現代に伝わっている。国文学研究資料館・国会図書館・早稲田大学坪内博士記念演劇博物館をはじめ、複数の研究機関に収蔵されている。国文学研究資料館の所蔵本は「国書データベース」、早稲田大学図書館の所蔵本は「古典籍総合データベース」、早稲田大学演劇博物館のコレクションは「浮世絵データベース」にてWeb上で閲覧することができる。また全ての頁の影印を掲載した翻刻本『児雷也豪傑譚』が国書刊行会から刊行されている。